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未 刊 本

鑑賞「千歌縹渺」  繪詞「神曲變奏」  歌集「爛 爛」  肉筆本「森曜集」  限定版「ハムレット」 

    ここでいふ未刊本とは、一般的な意味ではなく、刊行案内に記載されながら、なんらかの事情で刊行されなかつたものである。下の刊行案内は、歌集「青き菊の主題」(73年11月 限定200部 人文書院刊行)に添付されてゐる「青菊異聞」なる栞の後ろに記載されてゐるものだが、鑑賞「千歌縹渺」と繪詞「神曲變奏」は、結局刊行されなかつた。

     「千歌縹渺」は、その後、形を變へて「清唱千首」(84年12月)などの評論集に結實したとも考へられるが、「神曲變奏」は、遂に日の目を見ることはなかつた。當初の企畫では、ギュスターブ・ドレの版畫ダンテ「神曲」に寄せて短歌が詠はれるはずであつた。物語性のある壮大な主題は、塚本短歌にふさふ理想的な題材であつたはず。企畫段階で中斷したのは、いかにも殘念である。

 

 

    このやうな未刊本は、他に、歌集「爛爛」(叢書 火の雉子 湯川書房)がある。76年から77年にかけて、湯川書房は、三つの叢書を同時に企畫・刊行中であつた。各々、詩集叢書として"溶ける魚"、句集叢書として"水の梔子"、歌集叢書として"火の雉子"と名づけられたが、全巻完結に到らずその多くが未刊に終つた。本歌集はその未刊の一冊である。季刊「湯川」 77年1月号VOL1(湯川書房刊)巻末に記載された刊行案内によれば、"火の雉子"は、つぎのやうに刊行される豫定であつた。なほ、ゆまに版全集・別巻の年譜によれば、1978年の「短歌研究」5月號に「燦爛」の名で短歌が寄稿されてゐるやうだが、この歌集との關聯は不明。

 

      叢書 火の雉子( 全巻解説:塚本邦雄 )  ★:既刊

・・・・・・・・・岡井隆          「《H》アッシュ」

・・・・・・・・・葛原妙子          「薔薇窓」

・・・・・・・・・春日井健          「夢の法則」★

・・・・・・・・・山中智恵子          「蜻蛉記」★

・・・・・・・・・原田禹雄         「白き西風の花」★

・・・・・・・・・安永蕗子           「槿花譜」

・・・・・・・・・佐佐木幸綱       「燃えず燃ゆ燃えよ」

・・・・・・・・・島田修二           「冬行集」

・・・・・・・・・本田一楊           「あ  行」

・・・・・・・・・栗林さよ子        「堕ちたる天使」

・・・・・・・・・塚本邦雄           「爛 爛」

上の"栗林さよ子"は"栗秋さよ子"の誤植である。

qfwfqの水に流して Una pietra sopra              

 

 

    肉筆本「森曜集」限定20部といふものも、刊行されてゐない。上のふたつとは異なり、印刷された限定本は上梓されだものの、その肉筆特装本が制作されなかつた例である。印刷本「森曜集」(74年11月刊)の扉の裏の頁には、300部の限定刊行本のうち記番20までを「肉筆20部本」の副本とする旨の記載がある。しかし、肉筆本は制作されず、後に1部から20部までの副本相當が希望者に頒布された。

 

    全三十一首のなかで、うち八首に毛筆の散らし書きに馴染まぬカタカナが含まれてをり、なかでも、第23首は、全33字中23字がカタカナ("ー"や"・"を含む)である。たしかに毛筆には不向きな歌が多いと言はざるをえない。肉筆本が制作されなかつた理由も案外この不都合ではなかつたのか。

 

       豫談ながら、「塚本邦雄書展を記念し-----」とあるのは、大阪の今橋畫廊で1974年11月18日に開催された第二回「塚本邦雄墨跡展」を指す。この墨跡展において、「森曜集」から出展されたのかどうか、不明である。

 

    限定版『ハムレット』は刊行案内などに廣告されることもなく、企畫段階で中断となつたもの。關係者の間ではかなり檢討されたやうである。92年初夏。当時「塚本」本の一切を宰領してゐた政田岑生が企畫し、装丁には、かねて同氏が注目してゐた豐橋のデザイナー・味岡伸太郎を起用する豫定であつた。實際、政田岑生が豐橋に赴(おもむ)き、味岡伸太郎と面會してゐるが、なんらかの事情で實現には至らなかつた。

 

    元(もと)本は、1972年10月20日に深夜叢書から刊行された。装丁は簡素なもので、印刷もいいとは言へない。版面の構成も、本文の活字配置が窮屈なものとなり、作品の特徴(複數歌人がハムレットの登場人物に扮して詩を競ひ謳ふ形式)が、版面のデザインに十分生かされてゐないところがあつた。なほ、本書では塚本は舞臺監督の位置にあり出演(作歌)してゐるわけではない。

 

    本情報は、豐橋在住の塚田哲史氏からいただいたものである。氏は、豐橋において政田岑生を味岡伸太郎に紹介された方である。現在、短歌の分野以外に、村村に傳はる古謡を蒐集するなど、獨自の活動を續けてゐる。                        (参照 http://www.maroon.dti.ne.jp/aquainet/

 

    また、政田岑生によれば、「ハムレット」を編むに當り、この歌劇に參加する歌人たちに、役割や謳ひかたを指圖した演出メモが殘されてゐたらしい。同氏から、その出版の可能性について相談を受けたことがある。

                                            2013/06/25

 

 

 

 

普及本「ハムレット」

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