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カサンドラ異聞

    塚本邦雄の自筆原稿で、「Kassandra、獨活、悦樂の園」といふ作品がある。1958年ごろに執筆され中井英夫に送られたと聞いてゐる。「Kassandra、獨活、悦樂の園」の表題は、収録された七篇の中、第一編から第三篇までの主題を羅列しただけのもので假題であらう。どの雑誌に掲載されたかは、ゆまに版全集の別巻・年譜で調べたが判らなかった。また、この原稿はインクの褪色が進んでゐる箇處が散見され、映像で殘す必要もあると考へ、tifで手許に置いてゐる。おそらく、単行本には未収録ではないか。

 

    そこで、単行本未収録なら、小冊子の體裁でこの原稿を活字化できないかと考へた。全文(歌を除く)が新假名で書かれてゐたがすべて正假名に改め、各篇には小題を附した上、書名を『カサンドラ異聞』とした。さらに、原稿表紙部分には「自歌自註」とあるが、実際には自註自歌の形になつてゐた。これも、歌を文頭に置く形に變更した。『連弾』の改題を含め、伊吹文庫の恣意である。なほ、この「自歌自註Ⅰ」の字は塚本のものではない。

 

    ところで、この原稿は、些細ではあるが氣になることがある。詳しくは『カサンドラ異聞』末尾の解題に譲るが、文中に一箇處、60字程の訂正があり、濃い鉛筆で塗りつぶして元の内容が判らぬやうにしたとしか思へないところがあるのだ。

 

    『カサンドラ異聞』といふ題名はかなりお氣に入りだつたが、ほぼ完成という段階で、ある女流俳人の句集「花信集」に寄せた小文に、塚本が『カサンドラ遺文』を用ゐてゐるのを知つた。事前によく調べるべきだつたが、この他の名も思ひうかばない。

                                                         2015/1/23 

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